日々録 annex

東京在住、30代、三流ライター/エディターの毎日を綴る予定。

【映画】『君の名前で僕を呼んで』

【あらすじ】

1983年、北イタリアの夏。17歳のエリオは、父親の仕事の関係で24歳のオリヴァーと出逢う。誰からも好かれるオリヴァーの雰囲気に、あまのじゃくな気持ちを持ちながらもひかれていくエリオ。2人の距離は次第に近づいていくが…

映画『君の名前で僕を呼んで』日本語字幕付き海外版オリジナル予告編 - YouTube

 

【感想】

ストーリーの2/3ほどは「よくできた夢のようなBLじゃん!」的なドキドキ感にあふれている。でも、ただのよくあるBLに終わらないのは、エリオの気持ちの揺れ動きにあると思う。

 

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主人公のエリオは、内気な17歳。大学教授らしい父親、当時としてはかなりリベラルな考え方をもつ母親のもとで、読書やピアノやギターの演奏、編曲などを楽しんでいる男の子だ。とはいいつつも、かわいいガールフレンドもいるし、一緒にタバコやお酒を楽しむ仲間もいる。

 

そんなところに登場した、「まるで映画スターみたい」なオリヴァー。同性も素直に認めるほどハンサムで気さくな彼に、次第にひかれていくエリオ。女の子との初セックスにも興味があることも確かだ。でも、オリヴァーに惹かれることも確か。

 

そんなこんなのモヤモヤ、ヤキモキが積み重なりながら、物語は中盤、終盤へと進んでいくのですが…

 

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中盤以降には、タイトルどおりの言葉遊びが登場する。

つまり、エリオはオリヴァーに向かって「エリオ!」と呼び、

オリヴァーはエリオに向かって「オリヴァー!}と叫ぶ。

愛する人を、自分の名前で呼ぶ。

そのことに、どういう意味があるんだろうか。

 

単なる言葉遊び?

自分自身を表す名前を、相手に与えたい?

その名前とともに、相手と一体化したい?

相手に自分自身をささげたい?

 

おそらく、どれも当てはまるんだろうな。

 

公式サイトのあらすじにもかかれていたのですが、この映画のキモのキモは、終盤でのエリオと父親の会話にある。

 

エリオの父親が語ることは、なにも同性愛者に対することに限らない。

「人を愛する」「愛し合える」ということの尊さ。

誰かを愛するということに、

心の底から、真正面から向き合っているか、と問いかけてくる。その場面こそ、この作品がほかのいわゆるBLっぽい映画と一線を画しているところなのではないだろうか。

 

物語の最後は、エリオの顔のアップの長回しで終わっていく。

いったい、彼は何を考えていたのだろうか。

そう想いを馳せることは、自分自身を知ることにつながるような気がする。

 

【超個人的意見】

だるそうな映画だし、レンタルでもいいかー、

ロック様の『ランペイジ~』のほうが映画館映えするよねー、

とか考えていたのですが、映画館で観てよかった、というのが私の感想です。

あたりまえかもしれないけど、

映画館は映像の迫力だけじゃなくて、

音もすごくいいんだよ。

 

で、この作品は、音が想像以上に効果的に使われていた気がする。

エリオが奏でるピアノの瑞々しい音。

風に吹かれた扉が、リズムよく軋む音。

エリオの思いが乱れたとき、現れるハエが羽ばたく音。

粘着質で、想像力を掻き立てるエロティックな音。

そのすべての音が、多くを語らない映像を補完していたのですよ。

 

それにしてもエリオ役のコ、

あんなに複雑な役なのに、素晴らしい演技をしていたと思う。